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2007年10月

2007年10月11日 (木)

さんま苦いか塩っぱいか

秋がだんだんと深まってきましたね。

我が家の食卓にはこの時期、秋刀魚がよく登場します。

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秋刀の魚と書くように、秋が旬の、しかも安くて庶民の味方の秋刀魚です。

脂のよく乗った秋刀魚、本当に美味しいですよね。

我が家では夫だけが、秋刀魚のはらわたまで食べます。

秋刀魚好きの私も、どうもはらわたは苦手です。

秋刀魚の塩焼きといえば、大根おろしを添えて、醤油かポン酢で食べるのが定番ですが、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」では、秋刀魚に青い蜜柑の酢をしたたらせて食べるというのでしたね。

 


実は「秋刀魚の歌」に出会ったのは中学の国語の授業でした。

「秋刀魚の歌」が教科書に載っていたわけでもなく、プリントして配られたわけでもありません。国語の教師が何故かこの歌の一部を朗読してくれたのでした。

その時に先生が「これは男と女の詩で、悲しい詩なんだよなぁ~。でも、君たちにはわからんやろなぁ~」と言った言葉を、何故かよく覚えています。

詩の全てを読み返し、その「男」が佐藤春夫自身であり、「人に捨てられんとする人妻」が谷崎潤一郎の妻だと知ったのは、もう少し大人になってからの事でした。

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秋刀魚の歌   佐藤春夫

あはれ
秋風よ
情あらば伝えてよ
― 男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
思いにふける と。

さんま、さんま。
そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんまを食ふはその男のふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証せよ かの一ときの団欒夢に非ずと。

あはれ
秋風よ
情あらば伝えてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児とに伝えてよ
― 男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす、と。

さんま、さんま、
さんま苦いか塩っぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あわれ
げにこそは問はまほしくをかし。


 


 

さて、庶民の味方秋刀魚に、自分の悲恋を託して詠った佐藤春夫のこの詩は、何故か自然と口ずさんでしまいます。

もの哀しい秋の、悲しい恋の話だけに、しみじみと口ずさむのですが、心のどこかに安らぎを覚えるのも確かです。

それは、悲恋ではあったけれど、10年後には佐藤春夫が晴れて谷崎潤一郎の妻千代さんと結ばれたということを知ったからかもしれません。


 

あなたは秋刀魚の上に何をかけて食べますか?

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余談になりますが、私の住む地域の南の方では、秋刀魚を姿のまま押し寿司にした「秋刀魚寿司」が有名です。

その南の方の地域の海に秋刀魚がやって来る頃には、秋刀魚の脂がだいぶ抜けてしまっていて、その方が、美味しい押し寿司ができるのだそうです。

 

 

この秋刀魚寿司も、けっこういけますよ。

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2007年10月 5日 (金)

犬と私の10の約束

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10月に入って急に秋らしくなりましたね。

残暑が厳しかったので、この頃のひんやりとした空気に触れると、よけいに秋の涼しさを感じてしまいます。

それに、秋になった途端、夕暮れの訪れが格段と早くなるのには驚かされます。「秋のつるべ落とし」とは本当にうまい表現ですね。


さて、秋の夜長。本でも読んでゆっくりと過ごしてみたいですね。

私が最近読んだ本で一番気に入ったのが、「犬と私の10の約束」(文藝春秋)です。

作者は、川口晴さんです。

犬を描いた本って結構ヒットしますよね。

犬好きの人が多いからでしょうか? 私も犬が大好きで、家でもチワワを一匹飼っていますが、どちらかというと、犬を描いた本はあまり読みませんでした。

それなのに、この本はいっきに読んでしまいました。

書き出しがとってもステキなものだったからです。


話の始まりは犬ではなくお母さんの話からでした。

冒頭の一行目は〝私は泣くということができない〟というとても興味を引く書き出しでした。

何故私が泣いたことがないのかというと、泣きそうになると、決まって母が〝その顔大好き。なんでそんなに可愛いの―――〟と私を抱きしめるから。そのおかげで、涙も引っ込み、22歳になるまで一度も泣いたことがなかった・・・というエピソードで始まるのです。

その書き出しに続いて「私の母」の変わり者のようすが、次々と描かれます。

スリッパとモップを合体させたモッパという商品をはいてスケートするような動きで床掃除をしたり、野菜を買いすぎてダメにして、その腐ったピーマンを手に〝庭に植えたら生るかしら?〟と真顔でいう「私の母」の姿が描かれます。そんな母のステキなエピソードに魅かれてすっと本の中に入っていきました。


主人公は「ソックス」という名の犬なのですが、私はこの母がすっかり気に入ってしまいました。

題名の「犬と私の10の約束」は、その母が犬に成り代わって私と交わした約束のことなのです。

後は是非読んでみてください。

ステキなお母さんが遺していった犬「ソックス」と私の本当に心温まるお話です。




初めに書きましたが、私の家でもミルクというチワワを飼って三年目が過ぎました。

私といる時間が一番多いのに夫や息子達によくなついていて私のことは、まるで友達か、それ以下のように思っている、可愛いけれど、ちょっと憎たらしい愛犬です。


さて、本の題名になっている10の約束とは


① 私と気長につきあってください。

② 私を信じてください。それだけで私は幸せです。

③ 私にも心があることを忘れないでください。

④ 言うことをきかないときは理由があります。

⑤ 私にたくさん話しかけてください。人のことばは話せないけど、わかっています。

⑥ 私をたたかないで、本気になったら私の方が強いことを忘れないで。

⑦ 私が年を取っても仲良くしてください。

⑧ 私は十年くらいしか生きられません。だからできるだけ私と一緒にいてください。

⑨ あなたには学校もあるし友だちもいます。でもわたしにはあなたしかいません。

⑩ 私が死ぬとき、お願いです、そばにいてください。

  どうか覚えていてください、

  私がずっとあなたを愛していたことを。




この10の約束を読んでみて、ちょっと小憎らしいうちのミルクとの時間を、もっと大切に過ごそうと思ったのでした。

(その愛犬、ミルクについては、また別の機会に・・・。)




秋の夜長にお勧めの一作です。

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